No.118新着 公的扶助の就労・求職の義務と、守らないときの減額(制裁)の国際比較:OECD 2025年報告・英独米と日本の生活保護法第62条
OECD(2025年12月)は、最低所得の給付では求職などの条件は失業保険並みかより厳しい一方、制裁はゆるめの国が多いとまとめた。英国は最長182日の全額停止、ドイツは30%減額、日本は指示違反に停止・廃止がありうる。
本文と出典
【要点】
・OECD の作業文書(2025年12月3日・第329号)は、OECD・EU 各国の2024年の「就労・求職の条件」と「守らないときの制裁」を比べた。最後の受け皿となる給付(日本の生活保護に当たる第3層)では、求職や就労の条件は第1層の失業保険と同じかより厳しいが、制裁はゆるめの国が多い。
・英国のユニバーサル・クレジットは、就職の申し出を断るなどの重い違反で、標準手当の全額を最初は91日、1年以内の繰り返しで最長182日差し止める。
・ドイツの基礎保障(2026年7月から)は、義務違反で標準需要額の30%を原則3か月減らし、働ける仕事を受けないと標準需要額の分の受給権がなくなる(家賃などは払う)。
・米国の TANF は、就労を拒んだ人の給付を州が減額または打ち切らなければならない。
・日本の生活保護法は、福祉事務所の指導・指示に従わないとき保護の変更・停止・廃止ができると定め、その前に弁明の機会を与える義務がある。
【数字・中身】
OECD の比較(2024年のデータ・作業文書第329号)
・各国の失業者向けの所得保障を、失業保険(第1層)・失業扶助(第2層)・社会扶助や最低所得(第3層)に分けて比べた。日本・ギリシャ・スペインは3層のしくみの国とされる
・下位の層(第2・第3層)では、15か国で制裁が第1層よりはっきりゆるい(差が大きいのはリトアニア・スロバキア・ノルウェー・エストニア・ルクセンブルク)。逆に下位の層のほうが制裁が厳しい国が9か国(キプロス・ブルガリア・韓国・アイスランド・チェコ・米国・ラトビア・トルコ・イタリア)
・日本とスイスは、第2層の制裁は第1層より重いが、第3層では大きく下がる。OECD は、最後の受け皿としての性格を表すとしている
・第1層(日本では雇用保険)では、日本とオーストラリアは求職・就労可能性の条件は厳しいが制裁は比較的ゆるい国とされ、制裁が最もゆるい国の一つに日本が挙げられている
・2022〜2024年は、条件を厳しくする方向の改革が多かった(第1層ではギリシャ・アイルランド・ハンガリー・リトアニアが厳格化)
英国(ユニバーサル・クレジットの制裁・政府の手引き・2026年4月6日更新)
・最も軽い段階:面談に来なかったとき、連絡するまでの間
・低い段階:求められた活動をするまでの間+7日(1年以内の繰り返しで14日・28日)
・中くらい:求職活動が足りない・就労できる状態にないとき、最初28日、繰り返しで最長91日
・高い段階:就職の申し出を断る・自分から辞めるなど、最初91日、1年以内の繰り返しで最長182日
・減らす額は標準手当の100%(16〜17歳や面談だけが義務の人は40%)。子どもと住居の分は払われる。困窮したときは後で返す「困窮給付」を申請できる
ドイツ(社会法典第2編 第31a条・第31b条・第32条)
・義務違反:標準需要額の30%を減額。期間は原則3か月で、義務を果たすか果たすと約束すれば、1か月たった後に打ち切る。繰り返しても減額は合計30%まで。住居・暖房費は減らさない。特別に過酷な場合は減額しない
・働ける仕事を故意に受けない:標準需要額の分の受給権がなくなる(その仕事に就ける見込みがなくなれば1か月で、遅くとも2か月で終わる)。住居費は家主などに直接払う
・面談・診察に来ない:標準需要額の30%を1か月減額
米国(TANF・合衆国法典 第42編607条)
・州は、就労活動を拒んだ人の給付を、少なくとも拒んだ分に応じて減らすか、打ち切らなければならない(州が定める正当な理由などの例外あり)
・6歳未満の子を育てる一人親が、保育を見つけられないことを示したときは減額・打ち切りはできない
・就労活動は原則週30時間(6歳未満の子を育てる一人親は週20時間)。州は受給世帯の50%(二人親世帯は90%)以上を就労活動に参加させる目標がある
日本(生活保護法・2026年10月に e-Gov で確認)
・第4条:利用できる資産・能力などを活用することが保護の要件
・第27条:福祉事務所は生活の維持・向上などに必要な指導・指示ができるが、本人の自由を尊重し必要最小限にとどめ、強制してはならない
・第62条:受給者は指導・指示に従う義務があり、違反したときは保護の変更・停止・廃止ができる。処分の前に、理由と日時・場所を知らせて弁明の機会を与えなければならない
・法律に減額の割合や期間の決まりはなく、「変更・停止・廃止」のどれにするかは個別の判断になる
【背景】
・OECD は、就労・求職の条件は再就職を促し長期の給付依存を防ぐ一方、厳しすぎると弱い立場の人を低賃金の仕事に押しやり、厳しい制裁は申請をためらわせ困窮を深めるおそれもあると整理している。
・OECD は、下位の層の給付は子どもを含む家族の基本的な生活を支える資力調査つきの給付なので、制裁がその目的とぶつかることがあると指摘している。
【ほかの国では】
・OECD の比較では、制裁の厳しさは南欧・中東欧の国とルクセンブルクで高く(ルーマニア・ポルトガル・クロアチア・ルクセンブルク・エストニアなど)、オーストラリア・日本・ハンガリー・キプロス・オーストリアで低いとされる(第1層・2024年)。
【注意】
・OECD の「厳しさ」の点数は1(最もゆるい)〜5(最も厳しい)で、法令の決まりを点数にしたもの。実際に制裁を受けた人の割合ではない。
・OECD が日本で調べた第3層の給付の名前は、本文の表から読み取れなかった。日本の第3層は生活保護と考えられる。
・英国の日額の減額は毎年4月に改定される。ドイツは2026年7月の改正後の条文(法令データベースに日付の表示なし)で確かめた。
・日本の第62条による停止・廃止の件数や運用は、別の記事(保護の停止・廃止のしくみ)を参照。
【原文】
・Comparative assessment of activation requirements for unemployment and minimum income benefit recipients, OECD Social, Employment and Migration Working Papers No. 329(Joanna Mroczka, Daniele Pacifico, Eddie Chen, OECD・2025-12-03)https://www.oecd.org/en/publications/comparative-assessment-of-activation-requirements-for-unemployment-and-minimum-income-benefit-recipients_86ec18af-en.html
・Universal Credit sanctions(Department for Work and Pensions・2026-04-06更新)https://www.gov.uk/guidance/universal-credit-sanctions
・Sozialgesetzbuch (SGB) Zweites Buch § 31a Rechtsfolgen bei Pflichtverletzungen(Bundesministerium der Justiz)https://www.gesetze-im-internet.de/sgb_2/__31a.html
・SGB II § 31b Beginn und Dauer der Minderung https://www.gesetze-im-internet.de/sgb_2/__31b.html
・SGB II § 32 Meldeversäumnisse https://www.gesetze-im-internet.de/sgb_2/__32.html
・42 U.S.C. 607 Mandatory work requirements(Legal Information Institute, Cornell Law School)https://www.law.cornell.edu/uscode/text/42/607
【出典】
・就労・求職の条件の国際比較(OECD 社会・雇用・移民作業文書 第329号・2025年12月3日)https://www.oecd.org/en/publications/comparative-assessment-of-activation-requirements-for-unemployment-and-minimum-income-benefit-recipients_86ec18af-en.html
・ユニバーサル・クレジットの制裁(英国雇用年金省・2026年4月6日更新)https://www.gov.uk/guidance/universal-credit-sanctions
・社会法典第2編 第31a条・第31b条・第32条(ドイツ連邦司法省の法令データベース)https://www.gesetze-im-internet.de/sgb_2/__31a.html
・合衆国法典 第42編607条(TANF の就労要件)https://www.law.cornell.edu/uscode/text/42/607
・生活保護法(昭和25年法律第144号)第4条・第27条・第62条(e-Gov 法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000144
【動画】
・Neue Grundsicherung statt Bürgergeld: Was ändert sich jetzt?(tagesschau)https://www.youtube.com/watch?v=m_Un8-MQRDk
日本語の要約:ドイツ連邦議会が市民手当を新しい基礎保障に作り替えることを決めたと伝えるドイツ公共放送のニュース。受給者を早く仕事につなげて数を減らすのがねらいで、協力の義務と制裁が厳しくなる。当時の受給者は約550万人。(説明文から)
関連動画
日本語の要約(動画の説明文からこのサイトがまとめたもの)
ドイツ連邦議会が市民手当を新しい基礎保障に作り替えることを決めたと伝えるドイツ公共放送のニュース。受給者を早く仕事につなげて数を減らすのがねらいで、協力の義務と制裁が厳しくなる。当時の受給者は約550万人。(説明文から)
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