No.102新着 「働ける」として申請を5回却下した岸和田市の処分を取り消し(大阪地裁2013年10月31日判決):稼働能力の活用の判断基準
大阪地裁は2013年10月31日、「稼働能力を活用していない」として生活保護の申請を5回却下した岸和田市の決定を取り消し、市に68万3,709円の賠償を命じた。働く意思は社会通念上最低限の努力があれば足りるとした。
本文と出典
【要点】
・大阪地方裁判所(第7民事部)は2013年(平成25年)10月31日、岸和田市福祉事務所長が2008年7月28日付でした生活保護の開始申請の却下決定を取り消した(平成21年(行ウ)第194号)。
・夫婦は2008年6月から12月までに5回申請し、いずれも「稼働能力の活用が図られる」などとして却下されていた。
・判決は、稼働能力の活用(生活保護法4条1項)を、①働く能力があるか、②その能力を使う意思があるか、③実際に働く場を得られるか、の3点で判断するとした。
・国家賠償として、保護費に当たる額8万3,709円と慰謝料60万円、合わせて68万3,709円の支払いを市に命じた。
【数字・中身】
判決文が認めた事実・判断:
・夫婦は2008年2月に大東市から岸和田市に転入。1回目の申請(6月24日)の時、所持金は300円、預貯金は夫婦で477円だった
・却下の通知書の理由は「稼働能力の活用が図られるため最低生活維持可能」
・当時の世帯の最低生活費は月16万930円
・判決は、市の職員が相談に来た夫婦に申請させなかった対応も含め、申請権の侵害に当たる対応があったとし、2008年6月から2009年7月まで1年以上保護を受けられなかったことなどを慰謝料の理由に挙げた
判決の示した基準:
・働く意思は、本人の年齢・健康・学歴・職歴や困窮の程度をふまえ、社会通念上最低限必要な程度の努力をする意思があれば認めるべきで、さらに努力の余地があっても否定すべきでない
・働く場は、求人倍率などの数字で抽象的に可能性があるかではなく、本人が申し込めば原則として働けた状況かで判断すべき
【背景】
・生活保護法4条1項は、利用できる資産・能力などを活用することを保護の要件にしている(補足性)。働ける年齢の人の申請では、この「能力の活用」が争いになりやすい。
・判決文によると、旧生活保護法(1946年)は働く意思のない人などを保護から外す規定を置いていたが、現行法にはその規定がない(原告側の主張として判決文に記載)。
・同じ論点では、東京地裁2011年11月8日判決(平成20(行ウ)415)も、稼働能力を活用していないとした却下決定を取り消している(裁判所ウェブサイトの裁判例情報)。
【論点】
・却下は正しかったとする立場(被告・岸和田市の主張、判決文に記載):夫婦は2人とも働ける健康状態だった。夫は決まった勤め先を初日でやめ、妻も決まった仕事にほとんど出なかった。夫婦が出した求職活動の報告書とハローワークの紹介記録(夫2件・妻0件)が大きく食い違っていた。泉州地域の常用的パートの求人倍率は35歳から0.90、45歳から1.30(2008年5月)で、一般に期待される程度の努力をすれば職を得られた。
・却下は違法とする立場(大阪地裁判決):あらゆる手段を尽くしていなければ働く意思がないとするのは、申請者に不可能を強いることになりかねない。求人倍率などで抽象的に職を得られる可能性があっても、求人側の事情など本人の努力ではどうにもならない理由で職を得られないことはある。夫婦はこの基準で要件を満たしていた。
【注意】
・地方裁判所の判決で、最高裁の判断ではない。控訴されたかどうか、判決が確定したかは、この記事では確かめられなかった。
・判決は「水際作戦」という言葉は使っていない。判決が認めたのは、相談時に申請させなかった対応が「申請権の侵害」に当たるという点である。
・判決文では原告の名前は伏せられている。
【出典】
・大阪地方裁判所 平成25年10月31日判決(平成21(行ウ)194)裁判例情報(裁判所ウェブサイト)https://www.courts.go.jp/hanrei/84014/detail5/index.html
・同 判決全文(裁判所ウェブサイト)https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-84014.pdf
・東京地方裁判所 平成23年11月8日判決(平成20(行ウ)415)裁判例情報(裁判所ウェブサイト)https://www.courts.go.jp/hanrei/82326/detail5/index.html
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