No.90新着 日本弁護士連合会の「生活保障法」案(2019年改訂版):名称の変更・申請権の明記・基準を国会で決める案と、政府の答弁
日弁連は2019年2月14日、生活保護法を「生活保障法」に改め、申請権の侵害禁止や捕捉率の調査・公表、基準を国会が決める仕組みなどを盛り込んだ改正要綱案(改訂版)をまとめ、2025年6月27日にも制定を求めた。政府は2025年6月、名称を変える必要性は低いと答えた。
本文と出典
【要点】
・日本弁護士連合会(日弁連)は2008年11月18日に生活保護法の改正要綱案(第一次案)を公表し、2019年2月14日に改訂版をまとめた。2月19日付けで厚生労働大臣、衆参両院の議長、各政党の代表者に提出した。
・柱は5つ。①権利であることをはっきりさせる、②「水際作戦」(申請させずに帰す対応)をできなくする、③保護基準の決め方に民主的な歯止めをかける、④生活保護の一歩手前の人への支援、⑤ケースワーカーの増員と専門性の確保。
・2025年6月27日、最高裁が2013年からの基準引き下げを違法とした日に、日弁連は会長声明で「生活保障法」の制定を改めて求めた。
・政府(厚生労働省社会・援護局長)は2025年6月6日の衆議院厚生労働委員会で、権利性は今の法律ですでに明確で、名称を変える必要性は低いと答えた。
【数字・中身】
要綱案(改訂版)の主な中身(日弁連・2019年2月14日):
・法律の名前:生活保護法 →「生活保障法(健康で文化的な最低限度の生活の保障に関する法律)」
・言葉の置き換え:被保護者→利用者、保護→生活保障給付、扶助→給付、生業扶助→自立支援給付 など
・申請:申請権を侵害してはならないと明記。申請書の参考書式を誰でも手に取れる場所に置く。申請は書面でも口頭でもよく、口頭のときは実施機関が調書を作る
・広報:国と自治体に制度の広報の義務、実施機関に教示・援助の義務、利用したい人に説明を求める権利
・2013年の法改正で加わった、申請書の提出や扶養義務者への通知・調査を強めた規定は削る
・捕捉率(利用できる人のうち実際に使っている人の割合):厚生労働大臣が全国と地域別に定期的に調べて公表し、上げるよう努める
・保護基準:厚生労働大臣ではなく国会が法律の別表で定める。改定は専門家の審議会の意見を聴き、統計などとの関係を後から確かめられる方法で行い、利用者の意見を反映させる
・一歩手前の人:世帯の月収が最低生活費の10分の13を下回る世帯に、住宅・医療・教育・自立支援の給付を部分的に出せるようにする
・ケースワーカー1人あたりの担当世帯数の法定数:郡部40・都市部60(社会福祉法の改正として)
【背景】
・日弁連は、「保護」という言葉が利用者に恥の烙印(スティグマ)を与え、職員に「与えてやっている」という意識を生んでいるとしている。
・要綱案は、現行法を作るときの英文の厚生省案は「Daily Life Security Law」だったが、和文では「生活保護法」とされたという研究(副田義也)を紹介している。
・2018年2月5日の衆議院予算委員会では、志位和夫議員(日本共産党)が日弁連などの提案を踏まえた法改正(名称を「生活保障法」に変えるなど)を提案し、安倍首相(当時)は議員としての提案なので国会で審議してほしいと答えた。
【論点】
・名称を変え、権利をはっきりさせるべきとする立場(日弁連・2019年改訂版、2025年6月27日会長声明):名称と用語を改め、申請権の保障や捕捉率の調査を法律に書くべきとする。2025年6月6日の衆議院厚生労働委員会では浅野哲議員(国民民主党・無所属クラブ)も、ドイツや韓国の名称変更の例を挙げ、国が保障する姿勢を示す名称に改めるべきではないかと質問した。
・名称を変える必要性は低いとする立場(厚生労働省社会・援護局長・2025年6月6日答弁):生活保護法第2条で、国民が保護を無差別平等に受けられるとしており、権利性はすでに明確とした。長く使われてきた名称を変えると、ほかの社会保障制度との区別が難しくなり、かえって分かりにくくなることも考えられるとした。
【注意】
・要綱案は日弁連の提案で、法案として国会に出されたものではない(2026年10月時点で確かめた範囲)。
・ケースワーカーの法定数などの数字は日弁連の提案の数字で、今の配置基準とは違う。
【出典】
・生活保護法改正要綱案(改訂版)(日本弁護士連合会・2019年2月14日)https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2019/190214_2.html
・同 要綱案全文(PDF)https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2019/190214_2.pdf
・生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への補償と生活保障法の制定を求める会長声明(日本弁護士連合会・2025年6月27日)https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250627_2.html
・第217回国会 衆議院厚生労働委員会 会議録(2025年6月6日・浅野哲議員の質問と日原知己社会・援護局長の答弁)https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121704260X02520250606/138
・第196回国会 衆議院予算委員会 会議録(2018年2月5日・志位和夫議員の質問と安倍内閣総理大臣の答弁)https://kokkai.ndl.go.jp/txt/119605261X00520180205/306
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